<8>
クリュウが悲鳴を上げると同時に、見えない力がクリュウを中心に働いた。
「ぐおぉ!?」
クリュウとカイににじり寄ってきていた盗賊は、その力の影響を受けて、丘の下まで転がり落ちていった。
カイはなんとかその場に踏みとどまると、ぐらり、と傾いたクリュウの体を支えた。
右腕の疼きはいつのまにか収まっていた。
「っくそ!なんだったんだよ」
カイは毒づきながら、クリュウの顔を覗き込んだ。
もう、あんな思いはたくさんだっていうのに・・・。
「っと。おい、バイス。勝手に出るなって言っただろ?」
カイはそう言って、バイスにこっちに来いと手を差し出した。
しかし、バイスはまだ気が立っているらしく、まだ神経を張り詰めている。
「ま、しょうがないか・・・」
「おいおい。しょうがないか、じゃないぞ?」
カイの耳に野太い声が聞こえてきた。
「さっきは、よくも・・・」
声のした方に顔を向けると、さっきクリュウの見えない力によって丘の下までとばされてしまった盗賊が丘を登りきっているところだった。
「あ、無事だったのか」
「おかげさまで酷い目にあったぜ。覚悟はできて・・・」
盗賊の声は最後まで続くことはなかった。
それは、新たに聞こえた凄みのある声に遮られたからだ。
「久しく見ない顔だ。今日はどうしたんだ?カイ」
「か、頭!!」
カイはクリュウをそっと地面に横たえると立ち上がった。
「まだ生きてたのか。ヴェシム、あんたもしぶといな」
「お前には負けるさ」
初めに襲い掛かってこようとした盗賊は予想外のできごとに、ただオロオロとしていた。
「マッシュ。カイと、そこで気を失ってるお嬢さんをアジトまで案内して来い」
「へ?あ・・・、はい」
マッシュと呼ばれた盗賊は、間抜けな声を出すとぎこちない動作でカイ達とヴェシムを見比べた。
そんなマッシュを気にせずに、ヴェシムは丘を下り、待たせていた部下達と合流した。
しばらく動くこともできなかったマッシュに遠慮がちにカイが話しかけた。
「おい、あんた。・・・メッシュだっけ?とりあえず案内してくれよ」
「マッシュだ。言われなくても・・・」
「バイス、来い。行くぞ」
やっとマッシュは敵ではないと認識したバイスはカイのカバンの中に潜り込んだ。
カイはまだ気を失ったままのクリュウを横に抱きかかえると、マッシュに向き直った。
「行こうぜ?」
「あ、あぁ」
マッシュはノロノロと動き出した。
◆
「クリュウ。クリュウ。いいかい、よくお聞き」
「はい、教皇様」
クリュウは教皇の口から出てくる言葉をじっと待った。
「お前は感情を操れるようにならなければならない。自分のためにも、人のためにも」
「何故ですか?」
「今まで体験したことがあるだろう?感情が高ぶったとき、何が起きた?」
クリュウは少し考えた。
感情が高ぶったとき、今までいいことは1つもなかった。
「特に、もう滅んではしまっているが竜族が近くにいるときには特に気をつけるように」
「竜族が?なぜですか、教皇様」
「それは・・・・・・」
「それは?」
クリュウは自分の声で目が覚めた。
あの時、教皇様は何をおっしゃっていたのだろう・・・。
頭の中は、今見た夢のことでいっぱいだった。
どんなに思い出そうとしても、その記憶は深い霧の中にあるかのように輪郭すら思い出せない。
そうしている間に、今見た夢の内容も忘却の彼方へと行ってしまった。
残ったのは教皇の最後の言葉だけ。
「それは・・・・・・」
クリュウはもう一度、自分の口で教皇が言おうとしたことを呟く。
そこでふと、クリュウは気づいた。
自分は今、いったいどこに居るのだろうと。
記憶が確かなら、最後に見た光景は・・・。
ここまで思い出してはっとした。
「カイっ!?」
カイはあれからどうなったのだろう?
思わず自分が寝かされていたベッドから跳ね起きて、ドアへと向かった。
クリュウがドアノブに手をかけたとき、ノックをする音が聞こえ、返事をする間もなくドアが勢いよく開いた。
思わず一歩後ずさったクリュウは入ってきた人物を見て強張っていた顔の筋肉を緩めた。
「カイ・・・」
「起きたか、クリュウ」
カイは少し驚いたような顔をした後、ニッコリと笑った。
←前 次→