<7>
不思議な深い藍色の瞳をした少女だった・・・。
初めて会ったときに感じたのは、その目から発せれらる不思議な力だった。
ひっそりとした教会に閉じ込められているのにその目は強い意志を持っていた。
俺は、その目に惹かれた。
強くて、意志のはっきりした、でも、どこか儚げなその瞳に・・・。
「王子、テューラ王子。お待ちくださいませ」
「待ってなどおれん。馬を用意させろ」
パーツェン教会の歌姫が攫われた。
その事実はレカナン全土に衝撃を走らせた。
国中、いや大陸中で一番警備が厳重だと言われるパーツェン教会に賊が入った。
これだけでも、国を揺るがす大事件なのに、よりにもよってそこから国の宝の『歌姫』を攫った。
これでは他国の笑いものにされる!
この国の王子として、自分にはクリュウを取り戻す責任がある。
「父上から許可はもらっている。馬と、選りすぐりの兵を何人か用意させろ」
「で、ですが・・・」
「聞こえなかったのか?馬と、選りすぐりの兵を何人か用意させろ。今、すぐにだ!」
「は・・・はい」
慌てて走り去っていく侍従に冷たい視線を送った後、テューラは視線を窓の外に持っていった。
小さい頃、一度だけ会った歌姫は、自分のことを覚えているだろうか?
空は、いやみなほどに青く晴れ渡っていた。
◆
「よく考えたらさ、その服、何とかしないといけないな・・・」
クリュウは教会から逃げ出したときのままの服装だ。
服の素材は絹で、ところどころに豪華な細工が施してある。
素人がみても、それは職人が丹精込めて作ったとわかる代物だ。
「・・・あっ」
「だろ?」
クリュウの前を歩くカイは振り向いて、足を止める。
「ここ、まだ森だから特に問題はないけど・・・。やっぱり街とかにも行かないといけないからな。
それに、その格好じゃ歩きづらいだろ?」
カイの言う通りだった。
森の中には当たり前だが、枝が多い。
それに、長いスカートでは歩きにくいことこの上ない。
「う〜ん・・・。ローブでも着て近くの村に行って服調達するか?」
「ローブ着たほうが怪しいと思うんだけど・・・」
「大丈夫だって。旅にローブとかは必需品だから。着てるやつなんて腐るほどいるよ」
本当なのかな・・・?
無意識のうちにクリュウはカイに疑いのまなざしを向ける。
「そ・・・そんな目で見るなって。信用しろよ」
やっぱり、本当に旅してる人なんだ。
自分が望み続けていたこの、『外の世界』を旅してる人なんだと思うと、クリュウはカイが羨ましくなった。
「ここからちょっと坂を下りたとこに街道があるんだ。そこ通ったら今日中に村にでるはず」
「よく知ってるんだね」
「でも、ずいぶん昔のことだからなぁ・・・。それはいいとして、ほら、これ上に羽織れよ」
言ってカイはローブをクリュウに投げる。
「ありがとう」
「いいって。っと、ちょうどいい。クリュウ急いでローブを羽織ってくれ」
カイは笑って丘の下を指した。
そこに居たのは商隊と・・・。
「えっ・・・?あれって」
「あぁ、盗賊だ」
どうして盗賊が居るのがちょうどいいの?
「か、カイ・・・」
「大丈夫だって、安心しろ」
1人、また1人と、商隊の人が盗賊の刃にかかって倒れていく。
「や・・・、やだ。やだよ」
「クリュウ・・・?」
血が、地面に広がった。
「っ!!!」
カイは自分の右腕を押さえた。
「クリュウ!!」
どうしてだ、右腕が、熱い・・・。
右腕は、熱を持ち自分の意思とは関係なしに動こうとしている。
まるで、暴走しているみたいだ。
カイは左手の指が白くなるほどきつく自分の右腕を握り締めた。
「落ち着け!クリュウ」
「う・・・ぁ・・・」
突然、カイのカバンの中に入っていたバイスが暴れ始めた。
「っ!こんな、ときに・・・」
「キュィー」
バイスの苦しそうな声がカバンの中から微かに聞こえてくる。
が、カイにはどうすることもできない。
右腕から左手を離してしまったら、暴走してしまうとわかっているからだ。
もう、大切なモノを無くすのは・・・イヤだ。
「クリュウ!!」
カイは強い口調でクリュウに呼びかけた。
そして、クリュウの瞳を覗き込んだ。
どこか、焦点の合わさっていないクリュウの瞳をカイは我慢強く見続けた。
「クリュウ」
ゆっくりと、クリュウの焦点が合わさる。
と、同時にクリュウは小さく悲鳴を上げた。
カイがクリュウの視線を追っていった。
クリュウが見たのはカイの背後。
そこでは、先程まで商隊を襲っていた仲間の1人がニタリと黄色く光る歯を見せて笑っていた。
手に、赤く染まって鈍く輝く剣を持って。
「よぅ。穣ちゃん。それに、坊主」
盗賊が気味の悪い笑顔を浮かべながら2人に近づいてくる。
カイのカバンの中に入っているバイスが、暴れて外に出た。
「ギュゥ。ギュィ」
バイスは近寄ってくる盗賊に威嚇でもするかのように、尻尾をやや上に持ち上げ、姿勢を低くした。
「くそっ。バイス!!クリュウ!!!」
更に熱を持って疼く右腕を必死に押さえながらカイは叫んだ。
森に、再びクリュウの悲鳴が響き渡った。
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