<6>



これからどうしようか・・・。
カイは腕の中にいる少女を見て悩んだ。
勢いで連れて来てしまったのはよいが、これはもしかしなくとも人攫いといったものではないのか?

「っだー。バイス、お前のせいだぞ?」


言っても無駄だとわかっているが、ついつい言ってしまう。
バイスは首を後ろにまわして、カイに訴えるような視線を送ってくる。

「わかってるって。連れてきちまったのは俺だから、俺に責任があるって事だろ? でも、お前がどっか行かなかったらこんなことにはならなかったんだから、お前にも少し責任あるだろ」

低いうなり声が空に響く。

「わかったわかった。悪かったって。さて、これからどうしたもんですかね・・・」

とりあえず、どこかに身を隠したほうがよさげだな。

「バイス、あの森の中に降りてくれ」













「んっ・・・」

朝日が顔に当たるまぶしさにクリュウは目を覚ました。

「ここ・・・どこ?」

あたりを見回しても目に入ってくるのは見慣れた部屋ではなく、木ばかり。
初めて見る風景だ。

「森の中?」

どこにも人影はなく森は静まりかえっている。
そんな中に一人だけという状況に、クリュウは漠然とした不安を感じ始めていた。


昨日のあの少年は?
竜はどうなったの?

「カイ・・・?」


クリュウが呼んだ声が聞こえたのだろうか、ガサッと大きな音がして木の上から何かが降ってくる。

「お、目が覚めたか?」

ニッコリとまではいかないが、楽しそうに笑うカイを見て、クリュウの不安は少しずつ消えていった。
昨日は暗くてよく見えなかったが、カイは右側の首筋からこめかみにかけて刺青を入れている。
その刺青はまだ、15、6ほどの少年がやるにはあまりにも不似合いだ。

「ん?あ、これか?」

じっと自分の顔を見られているのに気づいたのだろう。
カイは刺青を指で指した。

「あ、ごめんなさい・・・」

「いや、これは竜族の男が成人したと同時に彫る刺青なんだ。中々似合ってるだろ?」

「痛そう」

そう言うと、カイは困ったように笑い、どこか遠くを見つめた。
なにか思い出しているのだろうか・・・。

「確かに痛かったなぁ。これ彫ったのうちのジジイなんだけどな、人が痛いって言ってるのにかまわず彫りやがるもんだから」

そう言って笑うカイの表情は懐かしげだ。
でも、その瞳にはどこか影があり、クリュウに罪悪感を感じさせた。

「あ、そういえば名前教えて」

そう言ったカイの顔にはもうさっきまでの表情はなかった。
木の上から降りてきたときのような笑顔が浮かんでいた。

「クリュウ。クリュウ・マルティスです」

「よろしくな、クリュウ。んでさ、早速で悪いんだけどあんたこれからどうしたい?」

何をやりたいかなんて聞かれたのは初めてだった。
あの教会では、誰もクリュウの意見なんて聞いてきてはくれなかった。

「勢いで強制的に連れてきちゃったからさ。あそこに戻りたいんなら近くの村まで送ってくけど・・・」

カイはクリュウの顔を覗き込んだ。

「聞いてるか?」

「え・・・?あ、はい」

どうしよう・・・。
教会に戻ったら、これまで以上に束縛される。
私は・・・。


「教会には、帰りたくない」


自由になりたい・・・。


「じゃ、一緒に行くか。よし、そうと決まれば・・・」

カイは指笛を吹いてバイスを呼ぶ。



「行くぞ。長居は無用だ。そろそろここもヤバイ」

「キュ」

「いいの?」

「よくないんだったら、クリュウを置いてさっさとトンズラしてるって。あ、それ取ってくんね?」

カイが指差した先にあるのは木の枝にかけられている大きめの眼帯。

「この刺青があったらすぐにばれるだろ?ちょうど隠れるんだよ」

クリュウがそれを手渡すと、カイは慣れた動作で着け、ほらな?とにっこりと笑った。

「つけたら、見えにくくない?」

「いや、もう慣れた。大丈夫だよ。じゃ、行こうか」

カイは大きめのカバンに入るように、バイスに指示を出した。
バイスはカイを恨めしげな視線で見つめた後しぶしぶとカバンの中に入っていった。

「バイス、苦しくないの・・・?」

「大丈夫だって。こうしないと行く先々でえらい騒ぎになるんだ。 いつ、どこで誰が見てるか分かんないから用心に越した事はないんだよ。今からこの森出るし」

ほら、行くぞ。とカイはクリュウを手招きする。


「うん。カイ、ありがとう・・・」

「よ、よせって。そんな・・・気にすんなよ」




竜族の少年と歌姫の少女の時が重なり合い、運命の歯車は軋みながら回り始める。



←前 次→