ふと目に付いた赤い花。
手折ろうとして、止める。


―おい、楓。お前、知ってるか?―

それは頭の中に彼の声が蘇ったから。

―この花、曼珠沙華って言うんだぜ。こんなキレイなのに毒があるんだ―

明るい笑い声、黒よりは茶色に近い髪、浅黒い肌。
君とは、幼いときからいつも一緒に居た気がするよ。



ね・・・・・涼。



―信じられるか?それなのに花言葉が『陽気な気分』って言うんだぜ?やっぱさ、昔の人の考えてたことってわかんねぇよな―

私にとっては君が花言葉を知っている、ということの方が何倍も信じられなかったよ。
今思い出しても笑えてくるんだ。あの時の君の反応が・・・。

―なんだよ、それ。俺だって花言葉のひとつくらい・・・―
―涼、楓さん。お茶にしましょうか―

おば様にお茶に誘われてしまったせいでこの話は終わりになってしまったけど、あの血のように赤い花のことは今もよく覚えている。

辞典における意味は、天上に咲く花。
「不吉」の象徴。


確かに、「不吉」なのかもしれない。
こんなときに、曼珠沙華を見つけるなんて、ね。


止めていた手を再び伸ばし、ポキリ、と小さな音を立てて曼珠沙華の花を折った。

風に揺れ、燃え盛る魅惑の華。
まるで命の灯火のように感じる。

「涼・・・君は、私を置いて逝ってしまうの?」




曼珠沙華、もうひとつの花言葉は『悲しき想い出』





今の私にとって、君との思い出は、幸せすぎて悲しい想い出だよ。
でも、とても綺麗な思い出。

地上から天に向け、綺麗に咲き誇るこの華を、君に送ろう。
それが、私にできる唯一のはなむけ。

帰り道に海に行き、手折った燃え盛るような赤い曼珠沙華と、途中見つけた白の曼珠沙華を君が居なくなった方向に向けて、投げた。

くるくるくるくる回り、海にふわりと落ちた曼珠沙華。
赤と白が混ざり合い、不思議な模様となる。



君がいつでも帰ってこれるように、私はずっと待ってるから。
私が想うは今も昔も君一人。



「絶対に、君が死んだなんて信じないから。でも・・・・」


蘇る貴方の顔、声。







今だけ、此処で泣かせて。
寂しくて、君が居ないと寂しいから・・・。
早く此処に帰ってきてよ。


小さな小さな泣き声が、暗くなり始めた海岸に、ひっそりと響いた。






海に漂う曼珠沙華。
波に揉まれて沈みながら、それでも強く輝き続ける。
消えない命の灯火のように。