覚えているだろうか。
女の子にとっては大事な日。
バレンタインデーのことを。




完璧に、お菓子会社の陰謀だとわかってはいるけれども・・・。
やっぱり、ついついそれに乗せられてしまう。

「今度こそ」

現在5戦5敗。
チョコレート作りは困難を極めている。
私はもともと手先が器用ではなく・・・早い話がとても不器用だという事なのだが。
普通は簡単にできるようなことでも簡単にできない。
編み物をやった時は、悲惨だった。
やっているうちに、だんだんとマフラーは意味のない毛糸の塊と化していった。

「・・・ぁ」

こげた。

よし、もう一回。


「いいかげん止めたら?」

「うっうるさい!!」

見かねた母親が口を出してくる。

「これで、7回目?」

「違う。・・・6回目」

「似たようなものよ。ほら、さっさと・・・」

どきなさい。と続けようとした母親をさえぎり、最後のお願いをする。

「もう一回。本当にもう一回だけ!!」

うちの母親は押しに弱い。

「しょうがないわね」

そして、とてもいい人。

「ほら、途中まで一緒にやってあげるから」

「でも・・・」

「また失敗したいの?」

1人でやらないと思いが伝わらないような気がする。

「しょうがないわね」

母親は溜息を一つ吐くと、私に提案をしてきた。

「そばで失敗しないように見ててあげるわ」

「ありがとう!!お母さん」

失敗続きの私にとって、それは何よりもうれしい言葉だった。

次こそは・・・。






「今日は何の日でしょう?」

男子が可愛い女の子にチョコ頂戴攻撃を開始していた。
私のところにくるはずはないけれど、やっぱり誰が誰にチョコをあげるのかは気になる。

でも、私には周りを気にする暇なんて本当はない。

今は、自分のことで精一杯。

いつ彼は1人になるのだろうか。
こんなことなら、昔風に机の引き出しの中に入れておけば・・・。

いや、やっぱり直接渡さないと。

「・・・大丈夫か?」

「へ?いや、え?」

百面相でもしていたのだろうかと、思わず自分の顔を確認する。

ひとしきり、自分の顔を確認した後ふと気づいた。
目の前にいるのって・・・。

「・・・あ、あれ。近藤君?なんでこんなところに」

「こんなところって、昼休みとはいえここ教室・・・」

「あ、そうか。そうだよね。うん」

駄目だ。
今日はもう駄目だ。
チョコ渡すの諦めたほうがいいかもしれない。

「道元さんは誰にも渡さないの?」

「なんで?」

そりゃ渡したいですよ。
渡したいですとも、あなたに。

「なんでって・・・。さっきから表情くるくる変わっててすごい悩んでる風だから」

「そ、そんなに・・・?」

もう一度、自分の顔を確認する。
今は、大丈夫だ。

「で、あげないの?」

「あげたいよ」

「なんであげないの?」

なんで掘り下げてくるの!?

言えるわけ、ないでしょ・・・。

「機会を待ってるの」

「機会?」

「周りに人が居るとあげにくいでしょ」

私のこの答えに納得したかのように、近藤君はうなづいた。

「そうだよなぁ」

・・・このままじゃきっと、今日中にあげることなんてできない。
でも、ここであげることもできないよ。

「あ、そうそう。俺にチョコないの?」

「・・・・・・」

か、顔が赤くなる。
ヤバイ・・・。

私はとっさに下を向いた。

これじゃ、誤解される。
でも、もう行動しちゃった後だし。

近藤君が目の前から離れていく気配がした。

「ま、待って」

誤解されたままじゃ、絶対にチョコなんて渡せない。

急いで机の中に入れていたチョコを取り出した。

「はい」

ここまできたら、完璧にふっきれていた。
もう、どうなってもよかった。

「あ、ありがと・・・」

「見た目は悪いけど、頑張って作ったんだよ」

「・・・知ってるよ」

恥ずかしくて、顔が赤くなるのがわかった。
ここまで照れてたら、気持ちを伝える意味なんてないんじゃないかと思った。
でも、言わないと。
言わないと、ちゃんとした気持ちはきっと伝わらない。

「私・・ね・・・・近藤君が、好きだよ」

最後の方が聞こえたかどうかはわからない。
こんな教室の真ん中で告白する羽目になるなんて、全然考えてなかった。
でも、幸いなことにクラスの人は気づいてはいない。

「・・・そ、それって」

言ったのはいいけど、逃げたい。
断られるのが怖い。
クラスの人の前で振られるのが怖い。

「ご、ごめん」

「ま、ちょっ・・・」

思わず、その場から逃げ出そうとしていた。
私の進路をさえぎるように、近藤君が私の前に立った。

「答え、聞かないの?」

「聞きたいけど・・・怖いから」

「俺は・・・」

聞きたいけど、聞きたくない。
耳を、ふさぎたい。

「きっと、道元さんが僕を好きになる前から、道元さんのことが好きだよ」

頭の上に、ポンと手を置かれた。

「これでやっと、俺の恋も実ったわけだ」

「・・・な、何言って」

「知らなかっただろうけど、俺ずっと前から道元さんのこと好きなんだよ」

「ずっと前って・・・」

「中学2年の時からだから、もう4年かな」

「中学違う」

「そこはもう、企業秘密。っていうか、県の大会で見て一目ぼれしたんだよ」

照れずに、ずばずば言う彼についていけない。
頭がパンクしそう。

「まあ、今から恋人ってことで。よろしく」

「え、えっ?」

「俺じゃ不満?」

「ぜ、全然」

言ってから、また顔が赤くなるのがわかった。

「さて、記念すべき最初の贈り物でも食べますかね」






「あの日のことは忘れられないな」

近藤君が笑って言った。

「あのチョコ、溶けてたんだ」

「わかってる!!」

「ごめんごめん」

本当に悪いと思っているのだろうか?

「さて、今年のチョコはっと・・・あっ」

「・・・今度はちゃんとやったはずなのに」

チョコはまたしても溶けていた。

「個性ってことかな」

「チョコに個性なんてあるの?」

真顔で聞いた問いに、彼は笑い声を返してきた。




手には溶けかけのチョコレート。
心には微かな勇気。
あの日、私は告白した。