なんの前触れもなく指先が触れた。

「っ」

とても見覚えのあるその手と自分の手が降れたのだと考えるとなんだか照れくさくて、恥ずかしくて・・・。
私は不自然なほど急いで本を取ろうと伸ばしていた手を引いた。

「うぉ!?」

「い、いつからそこに?」

後ろを振り返って相手の顔を見なくても、指先を見ただけで誰だかわかった。
きっと、彼だ。
彼じゃなかったらこんな反応取らないって自信もあった。

「いや、さっきから危なっかしいなってさ。取れないんだったら他の奴に頼めばいいのに」

彼からのその言葉がうれしかった。
特別な感情は込められてないかもしれない。
でも、私を少しでも思って発してくれた言葉だから。

「ほら」

私が取ろうと思っても取れなくて、必死に手を伸ばしていた本をいとも簡単に取った彼は、その本を私にポンと投げてきた。

「あ、ありがと・・・」

「いいって」

そう言って彼は笑った。
優しくて、でもどこか頼れるようなそんな安心する笑顔。
彼のこの表情がとても好きだった。

「でも、その本お前が読むなんて結構意外だな」

だって、これはあなたが読んでた本だから。
少しでもいいから、あなたの事知りたいから。

「そうかな?」

こんな理由だから、恥ずかしすぎてあなたには言えないよ。

「だって、今までお前が読んでた本って歴史関係ばっかだったじゃん」

なんで知ってるんだろ・・・。

「だから、SF系の話読むのって珍しいなって」

「たまには、こんなのもいいかなって思ったんだけど。・・・変かな?」

自分でも何言ってるかわかんなくなってきた。

「そんな事ないって。俺さ、けっこう前にお前が読んでた本読んでみたんだ」

私が読んでた本を知ってくれてるの?
その事実がとってもとってもうれしい。

「俺には無理だった。速攻で寝ちゃってさ」

「本って好みがあるからね」

そう言うと彼は苦笑いをして頭をかいた。

「確かにな。俺的に、少しでもお前の事知りたかったんだけど・・・」

彼の言葉に思わず耳を疑ってしまった。
止めてほしい。
そうやって、変に期待を持たせないで。

彼が滅多に見せない真剣な表情をして、私をじっと見てきた。

「俺さ、回りくどい事嫌いでさ。やっぱり本人に直接聞いた方が確かな情報得られるし、長い間一緒に居られるし」

彼の顔が少し赤い。
つられて私の顔も赤くなる。

ど、どうしよ・・・。
ここまで言っておいて告白じゃなかったら、今日一日すっごいへこんでそう。

「俺・・・」

この言葉の先を聞きたい。
でも、怖い・・・。

「安谷」

「頼むから黙って聞いててくれよ・・・」

ここから逃げ出してしまいたい。

初めて聞く彼の真剣な声も。
初めて私に向けられた真剣な眼差しも。

どうしようもないぐらいに、私を混乱させる。

「俺はさ、ずっと前から神谷のこと好きだったんだ」

低い声。

なんだか、男の子なんだと再確認してしまう。

返事を、返さないと。
言葉を、言わないと・・・。

「安谷・・・」

「好きなんだ。なぁ、お前は・・・神谷は俺の事どう思ってるんだ?」

「私は、ずっと・・・ずっと安谷のことが」

告白されたのは私の方なのに。
きっと、私の心が分からなくて、恥ずかしくて。
泣いてしまいたい気持ちでいるのは安谷の方なのに・・・。
なんでだろ、涙が出てくる・・・。

「ごめっ」

「悪い・・・。いきなり変な事言って」

変に誤解された。

彼が後ろを向いた。
歩いて行ってしまう・・・。

違う。

「違うの」

私は彼の学生服のすそをつかんだ。

「私は安谷が好き。大好き」

沈黙が、なんだか痛い。
安谷がまだ背中を向けたままなのが、私をますます不安にさせる。

「やす・・・」

彼の服のすそをつかんでいた手を引っ張られ、私は彼の胸の中に倒れこんだ。
慌てて彼から離れようとした私を、安谷の腕がきつく抱きしめて・・・。

「バカ。変な心配をかけさすんじゃねえよ」

その声に、さっきまでの真剣さは含まれてない。
いつもの、暖かい安谷の声。

「ごめん・・・」

「謝るなよ。早とちりした俺もバカなんだし」

上から降りてくる安谷の声。
すぐ近くにある安谷の暖かさ。

とても嬉しいけど、それ以上に恥ずかしい・・・。

上、見れないよ。

「神谷」

「え?」

条件反射で私は安谷を見上げた。

か、顔がすぐ近くに・・・。
頬が火照ってくるのがわかって、なんだかますます恥ずかしい。

あれ?
なんだか、だんだんと顔が安谷の顔がだんだん近づいてきてる・・・?

「ぁ」

思わず目を閉じたと同時に、コツンと小さな音がした。
安谷のおでこと私のおでこがぶつかった音。

「キス、されると思った?」

からかいを含んだ安谷の声。
まだ、額から彼の体温を感じる。

恥ずかしすぎて、目が開けられない。

「今は、まだ・・・。お前の体温感じられるだけでいいからさ。お前が平気になるまで俺待つから」

唐突に、彼の体温が離れるのを感じた。

「でも、あんま我慢できる自信ないかもな」

言葉と同時に差し出された優しい手。
ずっと、想ってた体温がそこにはある。

差し出された手に触れたら、優しさが伝わってきた。
そっと握ったら、私が痛くない程度に強く握り返さされた。

この体温を失くしたくない。
離れたくない。

こんなに恋焦がれたあなただから。
いつまでも、隣で笑い合えたなら。
これ以上幸せな事なんて、きっと他にはないでしょう。