あの日君は笑ってた

いつもと同じように

見るのが最後になるかもしれない君の笑顔

私は必死に焼き付けた

それから、それでも・・・・・・

私はまだ、あなたの事を想っています







意思







偶然とは、なんて恐ろしいものなんだろう。

私は顔が強張るのを感じた。
だって、しょうがないじゃないか。
最近やっと忘れかけてきていたのに。
3年も片思いしてる人が、今私の目の前に居た。

「あっれ、峰村?やっぱ峰村じゃん。元気?」

久しぶりに聞いた彼の声。
久しぶりに見た彼の笑顔。
あの日、卒業式で止まっていた時間が動き出す。

「う・・・ん。坂本も元気そうで」

メールは途切れ途切れになりながらも続いていた。
それも、つい最近途切れてしまったのだが。

「でも、ホント偶然だよな。こんなとこで会うなんて」

「そうだね。坂本も友達と来たの?」

私達が今話しているここは旅館のロビー。
まだ時間が早いこともあって、私たちの他に人は居ない。

「そうなんだよ。旅行に行くなら、これが最後のチャンスだろ?」

「だね。来年になったら受験生だもんね」

「お前は、違うけどな」

そう言って、彼は笑った。

中学までは同じ学校だったが、進路の違いもあって高校は別。
おまけに、私には彼とちがって、来年受験はない。

最近流行の曲がいきなり静かなロビーに響き、私と坂本は飛び上がった。

「あ、俺だ。・・・はい?わかった。すぐ戻るよ」

話している彼の横顔に見入ってしまう。
これじゃ、まだまだ吹っ切れそうにない・・・。

「んじゃな。峰村。後でまた会おうぜ」

「バイバイ」

笑いながら別れを告げるのも、彼の言葉のおかげで辛くはなかった。
後で、また会える。
そう思うと、心が温かくなった。






「遅い。早く帰ってきてくれないと、続きができないでしょ?」

部屋に戻るなり、友達の美由紀から文句を言われた。

「なら、もうちょっと頼む物を統一してよ」

「それじゃ、罰ゲームにならないような気が・・・」

「清水はだまってて」

抗議をしてきた男子を一蹴し、机の上にジュースを乱暴に置く。

「わわっ。炭酸もあるのに!!」

もう1人の男子、黒澤が慌てて立ち上がる。
残りの2人もそれぞれ私が買ってきた物に手を伸ばす。

「じゃ、続きをやろうか」

私はそう言って、机の上に散らばっているカードを拾った。

「さ〜って、王様は誰でしょう?」

早いもの勝ちと言わんばかりに、私以外の人がカードを取った。

「やった!次は俺が王様だ!!」

残念ながら、私は王様ゲームが終了するまで一度も王様になることができなかった。






「藍って、本当に弱いよね」

脱衣所で浴衣に着替えている私に向かって美由紀が呆れたように告げてくる。

「そんなことないよ」

そうは言ってみたものの、私が弱いのは事実。
昔から、ここぞと言うとき勝つことができない。

「あ、着かたってこれでいいんだっけ?」

「そうそう。逆にしたら死に装束だもんね」

「笑えない・・・」

「さ〜って、野郎どもは上がったかな?」

美由紀はそう言うと、さっさと脱衣所を出て行ってしまった。

少しぐらい待ってくれてもいいと思うのに・・・。

美由紀の後を追って、急いで脱衣所を出ると、私以外の全員が風呂上りの牛乳を飲んでいるところだった。

「おっそいぞ、峰村〜」

黒澤が飲み終わった牛乳瓶を片手に私に手を振る。
ふとその隣を見て、私は本日2度目の衝撃を受けた。

なぜ、そこに居る?

坂本が、清水と仲よさそうに話していたからだ。
知らない人も何人か居るから、きっと坂本と一緒に止まっている友達なのだろう。

「峰村?あっ!」

坂本が驚いたような顔をして、私を見てくる。

「なになに。知り合い?」

美由紀がどこかおもしろそうに、私のそばへとやってくる。

「中学の同級生」

「峰村、ちょいちょい」

あの日、卒業式の時のように笑った彼に手招かれ、私は坂本にゆっくりと近づいた。
坂本は、何を考えたのか私の耳元に口を近づけると囁いた。

「夕飯食べたあと、ここで会おう」

「・・・え?」

囁くと、そのまま体を私から離し友達と一緒に部屋に帰って行ってしまった。

「・・・どうしろと?」

私のこの呟きは当然坂本には聞こえない。
彼の代わりと言わんばかりに、この呟きを聞いた美由紀や清水、黒澤が「何が?」ととても興味深そうに尋ねてくる。

「気にしない、気にしない。ほれほれ、部屋に戻ろ」

納得のいかない顔をしていた3人だが、もうそろそろ夕食の時間ということもあって、しぶしぶと部屋に戻ることを了承した。









「おいしかった〜」

満足そうに、黒澤が言った。
細いのに、どうしてあんなに食えるんだ?

「本当に、いい旅館選んだねぇ」

「選んだ峰村達に感謝だな」

清水と黒澤が笑った。

「藍、もう寝る?」

「いや、もう一回お風呂入ってくる」

「入りすぎてのぼせるなよ」

「わかってるって。ありがとう、清水」

坂本はどうして私を呼びつけたんだろう?

「行って来ます」

「いってら〜」

みんなに手を振って、部屋を出た。

関係を断ち切ったのは向こうからなのに・・・。

会いたい、けど会いたくない。
2,3分で着くはずのロビーに私が着いたのは10分後だった。








「遅かったな」

「・・・ちゃんとした時間指定してなかった」

坂本はソファに座って自分の隣をポンポンと叩いた。

隣に座れ、と?

「悪かったな」

「いいよ。別に」

しばらくおとずれた沈黙。
空気が重い。

「・・・あのさ」

先に口を開いたのは坂本だった。

「メアド、変えた?」

「うん」

でも、どうしてそんな事を聞いてくるんだろう?

「・・・も、もしかして」

やばい・・・。

「変更のメール届いてなかった・・・?」

メールが突然途切れた理由はそこか!

でも・・・。

「ちゃんと送ってるよ。ほら」

送信済みのメールを見せた。
日付はメールが途切れるちょっと前。

「おかしいな」

そう言って、悩み始めた坂本。

「メール迷子になったのかな・・・」

最悪。
もう、泣き出してしまいたい気分になったけれども、そこをなんとかして堪える。

「あれ・・・?」

「どうした?」

「あっと・・・。携帯、変えた?」

最後に見た坂本の携帯と、今のテーブルの上に置いてある携帯は機種が違う気がする・・・。

「あぁ、つい最近。どうせだからメアドも変えたんだよ。んで、お前に送ろうとしたら・・・」

うわぁああ・・・。
やっぱり・・・。

慌てる私の姿を見ておかしい、と思ったのだろうか。
坂本が少し驚いたような顔で私を見てきた。

「もしかして、峰村お前も携帯・・・」

一瞬訪れた間。

「・・・うん」

「ちなみに、いつ?俺1月20日なんだけど・・・」

「私も、同じ日に・・・」

「マジで?」

神様、今とてもあなたを呪いたい気分です。

「えっと、なら・・・とんでもない偶然が重なった?」

「みたいだな」

あれだけ悩んだのに。
あれだけ落ち込んだのに。
あれだけ・・・。

あれは全部しなくてよかった悩みだったのか・・・。

悩んだ時間返して・・・。

「と、とりあえず、メアド教えて」

「う、うん」

なんでたかがメアドの交換なのに、こんなに動揺しないといけないの?
携帯を打つ手が震える。
気づかれたく、ない。
これだけ緊張してる事も、私の気持ちも。

「・・・なんかさ、卒業式の日思い出すな」

そういえば、あの日もこんな風にメアドを交換したんだっけ・・・?

あの日は別れる事が辛くて、とても寂しかったのを覚えてる。
どれだけ自分を励まそうとしても失敗して。
あの時泣いていたのは、学校を卒業するのが嬉しくて、寂しくて泣いていただけじゃない。
坂本と離れてしまうのが、嫌だったから・・・。
だからあの時、あんなに泣いてしまっていたんだろう。

「俺の方から交換しようって言ってさ。緊張した」

画面から顔を上げると、もう打ち込み終わったのか坂本が顔をこちらに向けていた。

「あの時、めちゃくちゃ緊張したんだ」

「・・・どうして?」

携帯を坂本に返しながら、聞いてみた。
期待していたこと以外を言われると落ち込むので、変な期待はしない。
でも、心の隅ではきっと期待してるのだろう。

「・・・さぁな」

坂本は意地悪く笑うと、私の携帯を返してきた。

「また、今度メールするわ」

「・・・うん。オヤスミ」

「オヤスミ」

坂本はソファから立ち上がると、ロビーの柱の影を指した。

「あそこ、行ってみるといい。きっとオモシロイものが見れるよ」

坂本が指差した瞬間、何かが慌てて影に隠れるのが見えた。

あぁ、なるほど。

「ごめんね」

「いや、いいよ。それじゃな」

坂本がロビーから消えた後、ゆっくりと柱に近づくと影に隠れていた人物達が嫌々といった雰囲気をかもし出しながら出てきた。

「う〜ん、お熱いね」

一発黒澤の頭を叩くと、他の2人の顔を見た。

「お風呂じゃなかったの?」

うっ・・・。

「ご、ごめん」

嘘ついた私が確かに悪いけど、でも・・・。

「にしても、藍の好きな人ってあの人だったんだ。なかなかいいね」

「な、何それ!!」

こうなるからイヤだったんだ。

「峰村って、あんな人が好みだったんだな」

「感心したように言わないでよ、清水」

ギロリ、と一睨みすると清水は黙った。

「部屋、帰る」

「お、怒るなよ」

「藍、たっぷり聞かせてくれるんだよね?」

バレないようにしてたつもりなのに・・・。
ってか、なんでこんな目に合わないといけないわけ?

「清水、鍵」

「え?あ、はい」

「アリガト」

まだ後ろで美由紀達がワイワイ言っている。
この後、面倒くさいんだろうな・・・。

「っ!」

手の中にある携帯が震えた。

こんな面倒な時に、いったい誰さ。

「あ」

メールを見た瞬間思わず声が出てしまった。

ヤバイ。

そう思ったがもう遅い。

「もしかして、彼からメール着たの?」

嬉しそうな美由紀の声。

「へぇ・・・。で、どんなメールだ?」

こちらも嬉しそうな黒澤の声。

誰が見せるか。

「知りませ〜ん」

見せれるわけない。
見せたら幸せが逃げちゃうじゃない。

『さっきも、メール打ってる今もだけど緊張してた。お前にメール打つときはいつも緊張してた』

坂本からメールが着ただけでも、とてもうれしい事なんだ。

手の中の携帯が、また震えた。

一瞬カラメかな?
と思ったけれど、よく見たら段変えが多いだけ。
下を見てみるとたった3文字の言葉が並んでた。

なんて返事を返そうか。

その答えは、ずっと前から決まっている。

でも、返事を返す前に後ろの集団を撒かないとなぁ・・・。












あの日の君と変わらぬ笑顔で

出会った君は笑ってた

この日初めて感謝した

経過はどうあれこの事態を招いた『偶然』に